訪問看護の開業資金は本当はいくら?|運転資金を甘く見ると3か月目にお金が尽きる
「訪問看護ステーションを開業したい。でも、いくら用意すればいいのかわからない」。開業を考えている看護師の方から、いちばん多くいただく質問です。
必要な額は、始める人数や地域によって大きく変わります。ただ、考え方はシンプルです。月の固定費から逆算すること。たとえば看護師3人・月の固定費150万円で、車で訪問するステーションなら、最低限必要な額はおよそ1,000万円です。ただし、手元のお金をゼロにするわけにはいきませんし、開業が遅れるといったイレギュラーも起こります。それに備える手元資金も加えると、1,500万円は用意しておきたいところです。看護師を多めに採用して始める場合や、家賃や人件費の高い都市部では、さらに大きな額が必要です。
「事務所と車があれば、数百万円で始められるのでは?」と思われるかもしれません。ところが、開業資金で本当に大きいのは、そうした目に見える費用ではありません。売上が入ってくるまでの間を支える運転資金です。ここを甘く見積もると、開業して3か月ほどで手元のお金が尽きてしまうこともあります。
開業資金の大半は「運転資金」
「運転資金だけで560万円も?」と驚かれたかもしれません。理由は、売上が入金されるのが2か月後だからです。開業してしばらくは、毎月150万円の支出に対して、入ってくるお金がほとんどありません。その不足を開業から6か月目まで積み上げると、約560万円になります。初期費用などと合わせて、ここまでの約1,000万円が、計算上どうしても必要な額です。
ただ、1,000万円ちょうどでは、いちばん苦しい月に手元のお金がほぼゼロになります。看護師が辞めて開業が遅れる、利用者さんの増え方が想定より遅い、といったイレギュラーが起きれば、すぐに足りなくなります。そこで、支出の3か月分ほど、約500万円の手元資金を上乗せし、最低限1,500万円を用意しておきたいのです。月ごとの詳しい数字は、このあと表でお見せします。
開業資金は、大きく分けると次の4つです。
- 法人の設立・指定申請にかかる費用
- 事務所の敷金・礼金や内装、車、請求に必要な端末、机などの備品や消耗品などの初期費用
- 指定を受ける前から出ていく人件費と家賃
- 開業してから売上が入ってくるまで、そして黒字になるまでを支える運転資金
見落としやすいのが車です。自転車で回れる範囲なら台数は少なくて済みますが、自転車では通えない広い地域を回る場合は、訪問するスタッフ1人に1台が基本になります。中古でも1台50万円ほどは見込んでおきましょう。また事業所には、オンライン資格確認やオンライン請求に使う端末が必要です。端末の用意から設定、保守までを業者にまとめて頼むと、数十万円かかることもあります。導入の補助金はすでに受付が終わっているため、今は全額が自己負担です。これに事務所の机や棚などの備品、訪問で使う消耗品、名刺といった細かな費用を足していくと、100万円ほどになります。
図は、看護師3人・車で訪問するステーションの例です。車や端末をそろえても、全体の7割を占めるのは運転資金と手元資金です。看護師を多めに採用して始める場合や、都市部で開業する場合は、運転資金がさらに膨らみます。
また、忘れてはいけないのが理学療法士・作業療法士・言語聴覚士といったリハビリの専門職(リハ職)です。リハビリの訪問を担うリハ職を開業時から迎えるなら、その人数分の給料と車の費用も上乗せして考えます。
最初の入金は、開業の約2か月後
訪問看護の売上は、介護保険・医療保険に請求してから入金されるまでに時間がかかります。おおよそ訪問した月の2か月後です。開業した月と翌月は、売上が立っても、お金はほとんど入ってきません。
その間も、看護師やリハ職の給料、家賃、車の費用は毎月出ていきます。さらに、開業したばかりのころは利用者さんが少なく、入金が始まっても、しばらくは出ていくお金のほうが多い状態が続きます。スタッフを増やせば、その分の給料も先に出ていきます。
図は、先ほどの月の支出が150万円のステーションの例です。1,500万円を用意しておけば、残高がいちばん少なくなる6か月目でも約490万円が残ります。1,000万円ちょうどだと、6か月目に残高がほぼゼロになります。さらに750万円しか用意していなかった場合は、3か月目にお金が尽きてしまいます。
月ごとの数字にすると、次のとおりです。まず、前提にした支出と売上の想定です。
毎月の支出は、看護師3人(うち1人は管理者)で始めるステーションを想定しています。人件費がいちばん大きいものの、それ以外にも家賃や車の費用、システムの利用料などが毎月かかります。リハ職を迎える場合は、その分の人件費と車両費が上乗せになります。
| 項目 | 月額 |
|---|---|
| 人件費(看護師3人分。月給35万円×3人と、会社が負担する社会保険料) | 121 |
| 地代家賃 | 10 |
| 車両費(ガソリン代・保険・駐車場など) | 8 |
| システム利用料(請求ソフト・記録ソフトなど) | 3 |
| 消耗品費(訪問で使う衛生用品など) | 3 |
| 通信費(スタッフの携帯電話・インターネット) | 2 |
| その他(水道光熱費、保険料、交通費など) | 3 |
| 合計 | 150 |
売上は、1回あたりの単価を8,000円として、訪問件数から計算しています。利用者さんが少しずつ増え、8か月目に看護師1人あたり月80件ほどに届く想定です。
| 月 | 訪問件数 | 1人あたり | 売上 |
|---|---|---|---|
| 1か月目 | 50件 | 約17件 | 40万円 |
| 2か月目 | 90件 | 約30件 | 72万円 |
| 3か月目 | 125件 | 約42件 | 100万円 |
| 4か月目 | 160件 | 約53件 | 128万円 |
| 5か月目 | 190件 | 約63件 | 152万円 |
| 6か月目 | 215件 | 約72件 | 172万円 |
| 7か月目 | 240件 | 約80件 | 192万円 |
| 8か月目 | 250件 | 約83件 | 200万円 |
この前提で、月ごとのお金の動きをまとめたのが次の表です。開業前には、車や事務所などの初期費用350万円と、開業前の人件費・家賃100万円で、あわせて450万円が出ていきます。開業後は毎月150万円の支出がかかる一方、その月の売上が入金されるのは2か月後です。
| 月 | 売上 | 入金 | 支出 | 残高 1,500万円 用意 | 残高 1,000万円 用意 | 残高 750万円 用意 |
|---|---|---|---|---|---|---|
| 開業前 | — | 0 | 450 | 1,050 | 550 | 300 |
| 1か月目 | 40 | 0 | 150 | 900 | 400 | 150 |
| 2か月目 | 72 | 0 | 150 | 750 | 250 | 0 |
| 3か月目 | 100 | 40 | 150 | 640 | 140 | −110 |
| 4か月目 | 128 | 72 | 150 | 562 | 62 | — |
| 5か月目 | 152 | 100 | 150 | 512 | 12 | — |
| 6か月目 | 172 | 128 | 150 | 490 | −10 | — |
| 7か月目 | 192 | 152 | 150 | 492 | −8 | — |
| 8か月目 | 200 | 172 | 150 | 514 | 14 | — |
表を見ると、売上は1か月目の40万円から8か月目の200万円まで順調に伸びています。それでも入金は2か月遅れて入ってくるため、入金が支出を上回るのは7か月目になってからです。それまでの間、残高は減り続けます。1,000万円の場合は6か月目に残高がマイナスになり、750万円の場合は3か月目の支払いをした時点で110万円が足りなくなります。
ポイントは、利用者さんが順調に増えていても、お金は減り続ける時期があるということです。試算表の上では売上が伸びていても、通帳の残高は下がっていく。このずれを最初から計画に入れておかないと、「業績は良いのにお金が足りない」という状態に陥ります。
いくら借りておけば安心か
開業時に用意しておく額は、次の4つを足して考えます。
- 初期費用:事務所、車、請求用の端末、備品・消耗品など
- 開業前の費用:指定を受ける前の人件費と家賃
- 運転資金:入金までの約2か月分と、黒字になるまでの赤字の合計
- 手元資金:残高がいちばん少なくなる月でも残しておきたいお金。支出の3か月分ほどが目安です。看護師が辞めて開業が遅れた、利用者さんが思うように増えなかった、といったときの支えになります
運転資金は、月ごとの資金繰り表を作って、残高がいちばん少なくなる月を確かめるのが確実です。図の例なら、残高の底は開業6〜7か月目。その月でも支出3か月分ほどの手元資金が残る額を用意しておきます。
ここで大切なのは、保守的に見積もることです。利用者さんの増え方は、計画より遅れることのほうが多いものです。「順調にいけば足りる」ではなく、「遅れても足りる」額を考えておきましょう。
開業のときが、いちばん「計画」で借りられるタイミング
「借金はしたくないから、貯めたお金だけで始めたい」。そう考える方も少なくありません。それでも開業時には、金融機関から借りておくことをおすすめします。
開業したばかりの会社には、まだ決算書がありません。そのため銀行は、事業計画書と、経営者がどう準備してきたかを見て判断します。言いかえると、開業のときは、実績ではなく計画の中身で評価してもらえるタイミングです。
しかも、創業間もない時期の融資は、創業を後押しする国や自治体の制度があるため、金利が低く抑えられていることが多くあります。低い金利で借りられるうちに、必要な額をなるべく多めに借りておく。これが、開業後の資金繰りに余裕を持たせるいちばん確実な方法です。
ところが一度決算を迎えると、銀行が見るのは決算書の数字になります。開業1年目は赤字になることが多いため、自己資金だけで始めて、お金が足りなくなってから借りようとすると、「赤字の決算書」で審査を受けることになってしまいます。
さらに、開業時に借りて毎月きちんと返していけば、それ自体が会社の実績になります。2拠点目を出すときなど、次の大きな融資の相談をするとき、この返済の実績と、開業時から整えてきた会計の数字が支えになります。
融資は「お金が出ていく前」に申し込む
訪問看護ステーションの指定を受けるには、申請の時点で事務所と看護職員(常勤換算で2.5人以上)、そして予定しているリハ職などのスタッフをそろえておく必要があります。つまり、売上がまだない段階から、人件費と家賃が出ていき始めます。
そのため融資は、お金が出ていき始める前に申し込んでおくのが基本です。融資は申し込んでから実際にお金が入るまでに時間がかかり、事業計画書の準備にも時間がかかります。申請の締め切りや指定の時期は自治体によって異なるので、逆算して早めに動きましょう。
開業時によく使われる2つの融資
開業時の融資では、日本政策金融公庫と、自治体の制度融資(信用保証協会の保証付きの銀行融資)がよく使われます。
日本政策金融公庫は、政府が全額を出資する政策金融機関(株式会社)で、創業する人向けの融資があります。実績のない開業時でも相談しやすいのが特徴です。
制度融資は、自治体・信用保証協会・銀行が協力して貸す仕組みで、自治体によっては利息や保証料を補助してくれることがあります。手続きは多くなりますが、地元の銀行と取引を始めるきっかけになり、事業を広げるときの相談先ができます。
どちらか一方だけでなく、必要な額や時期に応じて組み合わせることもあります。どちらの場合も、提出する事業計画書の中身が審査の土台になります。
条件は見直されることがあるので、申し込む前に必ず最新の内容を確認してください。
開業資金でよくある4つの失敗
1. 運転資金を少なく見積もる
いちばん多いのが、入金が約2か月後になることを計算に入れていないケースです。「月の売上が固定費を上回れば大丈夫」と考えていても、お金が入ってくるのは2か月後。その間の支払いをまかなうお金が必要です。
2. 借りる額を抑えすぎる
開業したばかりの会社は実績がないため、あとから追加で借りようとしても、なかなか貸してもらえません。足りなくなってから慌てるより、開業時に余裕を持って借りておくほうが安全です。使わなかったお金は、返済に回すこともできます。
3. 自己資金だけで始めようとする
お金が足りなくなってから借りようとすると、赤字の決算書で審査を受けることになります。計画の中身で評価してもらえる開業のときに、必要な額を借りておきましょう。
4. 看護師がそろわず、開業が遅れる
訪問看護ステーションの指定を受けるには、看護職員を常勤換算で2.5人以上そろえる必要があります。ところが、採用が決まっていた看護師が開設の直前に辞めてしまい、人数が足りなくなって指定を受けられない。そのまま開業が数か月遅れてしまった、というケースは珍しくありません。
開業が遅れても、事務所の家賃や、すでに雇っている看護師やリハ職の給料は毎月出ていきます。売上はゼロのまま、お金だけが減っていくのです。開業日がずれる可能性も見込んで、手元資金を厚めに用意しておくこと。そして何より、開業の直前で辞めることのないよう、初期メンバーはしっかりと厳選しておく必要があります。
まとめ
訪問看護ステーションの開業資金で押さえたいのは、次の4つです。
- 開業資金は月の固定費から逆算する。その多くは運転資金
- 最初の入金は約2か月後。資金繰り表で残高の底を確かめる
- 計画の中身で評価してもらえる開業時に、必要な額を借りておく
- 融資は、人件費と家賃が出ていき始める前に申し込む
開業資金の計画は、開業後の経営を左右する最初の大きな判断です。「何から手をつければいいかわからない」と感じたら、開業前のうちに専門家に相談してみてください。
