訪問看護の事業計画書の書き方|銀行が「貸したい」と思う数字の作り方

公認会計士・税理士 丹沢祐介

この記事を書いた専門家

丹沢 祐介公認会計士・税理士

  • 元 財務省
  • 4大監査法人出身
  • 外部CFO

国土交通省・財務省主計局で行政実務に携わったのち、大手監査法人で会計監査・内部統制支援を経験。現在は外部CFOとして、開業から事業拡大まで訪問看護ステーションに伴走するほか、全国の中小企業の資金調達・経営を支援している。

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「2拠点目を出したい」「看護師を増やして利用者さんの受け入れを広げたい」。そう考えたとき、多くの場合に必要になるのが銀行からの融資です。そして融資の相談で必ず求められるのが、事業計画書です。

ところが、事業計画書を作ったことがある経営者は多くありません。インターネットで見つけたテンプレートを埋めてみたものの、銀行の担当者から質問攻めにあい、結局思うように借りられなかった。そんな話もよく耳にします。

この記事では、訪問看護ステーションの事業計画書を、銀行が「この会社なら貸せる」と判断できる形にするための考え方を解説します。前回のコラム「訪問看護が倒産する本当の理由」でお伝えした「期のはじめに計画を立て、余裕があるうちに融資を受けておく」を、実際にどう進めるかという話です。

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まず決めるのは、数字ではなく「どんな会社にしたいか」

経営者が描くビジョンには、地域密着で看多機を運営する、他県へ多拠点展開する、サテライトで拠点を増やす、医療・介護以外の事業にも取り組む、などがあり、ビジョンによって必要な人・お金・時期がまったく変わる

事業計画書というと、いきなり売上の表を作り始めがちです。でも、本当に最初に決めるべきなのは、経営者がどんな会社にしたいのかというビジョンです。

たとえば、同じ「事業を広げたい」でも、行き先はさまざまです。

  • 地域に根ざして、看護小規模多機能型居宅介護(看多機・かんたき)まで手がけたい
  • 他県にも進出して、拠点を増やしていきたい
  • まずはサテライトで、今の事業所の周りに拠点を広げたい
  • 医療・介護・福祉とは別の事業にも挑戦してみたい

どれを目指すかによって、採用する人の数も、必要なお金の額も、借りるタイミングもまったく変わります。ビジョンがあいまいなまま数字だけを並べても、銀行には「この会社がどこへ向かっているのか」が伝わりません。

銀行が見ているのは「保守的に見ても返せるか」

銀行が「この会社なら返せる」と判断する3本の柱。保守的に見積もっても返済できる計画、日々の会計が適切であること、支出が健全であること

銀行が事業計画書で確かめたいことは、突き詰めると1つです。「この会社は、貸したお金を返せるか」。

そのために銀行は、計画がどれだけ実現できそうかを見ます。ここで大切なのは、うまくいったときの数字ではなく、保守的に見積もっても返済できるかという点です。思ったより利用者さんが増えなかった、看護師の採用が遅れた。そうしたときでも返せる計画になっていれば、銀行は安心して貸すことができます。

そして、その計画を信じてもらうための大前提が、日々の会計が適切であることと、支出が健全であることです。毎月の試算表がきちんと作られていて、使い道のはっきりしない支出がない。この土台があって初めて、計画の数字に説得力が生まれます。

訪問看護の売上は「積み上げ」で見積もる

月の売上の見積もり例。看護師5人×1人あたり月80件×1回あたり8,000円で月320万円。保守的に稼働8割で見ると256万円

訪問看護の売上は、「看護師の人数 × 1人あたりの訪問件数 × 1回あたりの単価」で積み上げると、根拠のはっきりした見積もりになります。1回あたりの単価は、加算の取り方や訪問時間によって変わりますが、おおむね7,000〜8,500円ほどが目安です。図の数字はあくまで例ですが、このように分解しておくと、「なぜこの売上になるのか」を銀行に説明できます。

さらに、稼働が8割にとどまった場合のように、保守的なケースも並べておきます。銀行が見るのは、むしろこちらの数字でも返済できるかどうかです。

1年間で返済に回せるお金のイメージ。楽観的な計画だけでなく、保守的な計画でも年間の返済額を上回っていることが大切

もう1つ、訪問看護ならではの注意点があります。売上が入金されるのは、訪問した月の約2か月後です。計画では、売上が立つ時期と、お金が入ってくる時期を分けて考えておく必要があります。採用を増やす時期には、入金より先に給料が出ていくからです。

事業計画書でよくある3つの失敗

事業計画書でよくある3つの失敗。1 見積もりが甘い、2 全体のイメージがない、3 会計とつながっていない(これが一番大きい)

1. 見積もりが甘い

売上は「うまくいけばこのくらい」という楽観的な数字、費用は「このくらいで済むだろう」という控えめな数字。これでは、計画どおりにいかなかったときに、すぐ返済に困ってしまいます。銀行もそれを見抜きます。

2. 全体のイメージができていない

いくら借りたいのか。借りたお金で、売上・利益・手元のお金がどう動いていくのか。この全体像が描けていない計画も少なくありません。借りる額の根拠が説明できないと、銀行は判断のしようがありません。

3. 会計とつながっていない(これが一番大きい)

会計とつながっていない計画では、銀行は「この数字はどこから?」と混乱する。試算表・決算書から計画の前提を作ると、銀行は根拠を追える

そして一番大きな失敗が、計画が会計とつながっていないことです。

銀行は、事業計画書と一緒に、これまでの決算書や試算表を見ます。ところが計画の数字が、実際の会計の数字とひも付いていないと、銀行は「この売上はどこから来たのか」「この人件費の前提は何なのか」を追えず、混乱してしまいます。どんなにきれいな計画書でも、前提が実績と結びつかなければ、信じてもらうことはできません。

反対に、これまでの実績(1人あたりの訪問件数、単価、人件費の割合など)を出発点に計画を作れば、説明の筋が通ります。「実績がこうだから、来期はこうなる」と言える計画こそ、銀行が評価する計画です。

拠点を増やすときは「拠点ごと」の計画を作る

新しい拠点は1年目は赤字、2年目にほぼ収支が合い、3年目に黒字になるイメージ。新しい拠点の赤字を既存の拠点の利益で支えきれるかを計画で確かめる

2拠点目、3拠点目を出すときは、会社全体の計画だけでなく、拠点ごとの計画が欠かせません。新しい拠点は、利用者さんが集まるまでしばらく赤字になるのが普通です。その赤字を、既存の拠点の利益と手元のお金で支えきれるか。何年目で黒字になる見込みか。ここを拠点ごとに示せると、銀行の評価は大きく変わります。

本社の事務や管理にかかる費用を、各拠点にどう割り振るかも決めておきましょう。割り振り方が決まっていないと、どの拠点が本当に利益を出しているのかが見えなくなります。

計画は「作って終わり」ではない

月の売上の計画と実績を並べたグラフ。差が出たら理由を確かめ、計画を直す。毎月の試算表と並べて比べるから、計画が生きた数字になる

事業計画書は、融資を受けたら役目が終わるものではありません。毎月の試算表と並べて、計画と実績にどれだけ差があるかを確かめます。差が出たら、その理由を考えて計画を直す。これを続けることで、計画が経営の判断に使える「生きた数字」になります。

計画どおりに進んでいることを示せる会社は、銀行からの信頼も厚くなり、次の融資の相談もスムーズに進みます。

まとめ

訪問看護ステーションの事業計画書で押さえたいのは、次の4つです。

  1. 数字の前に、どんな会社にしたいかというビジョンを決める
  2. 保守的に見積もっても返済できる計画にする
  3. 日々の会計とつながった計画にする(実績を前提にする)
  4. 作った計画を、毎月の実績と比べて直していく

事業計画書は、銀行に出すための書類であると同時に、経営者自身が自分の会社の進む道を確かめるための地図でもあります。「拠点を増やしたいが、どこから手をつければいいかわからない」と感じたら、早めに専門家に相談してみてください。

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