訪問看護が倒産する本当の理由|黒字でも潰れる「入金2か月ラグ」の落とし穴
「利用者さんは増えている。スタッフも本当によく頑張ってくれている。なのに、通帳の残高だけが減っていく」
訪問看護ステーションの経営者から、こうしたご相談をよくいただきます。損益計算書の上では黒字なのに、給料日が近づくたびに残高を確認してしまう。実はこれは、経営が下手だから起きるのではありません。訪問看護という事業の「お金の入り方」そのものに、落とし穴があるのです。
訪問看護ステーションは毎年たくさん生まれていますが、閉じるステーションも増えています。全国訪問看護事業協会の調査では、2025年度の1年間に新しく開設されたステーションが2,428か所あった一方で、廃止は960か所と、前年度の886か所からさらに増えました。また、開設したその年度のうちに廃止されたステーションも87か所ありました。廃止の理由は資金難だけではありませんが、立ち上げ直後のつまずきが少なくないことがうかがえます。
在宅サービス全体を見ても、東京商工リサーチの調査では、2025年の介護事業者の倒産は176件で、2年連続の過去最多でした。
この記事では、訪問看護ステーションが黒字のまま資金不足に陥る仕組みと、潰れないステーションが実践していることを解説します。
訪問看護の売上は「2か月後」にしか入ってこない
訪問看護の売上のほとんどは、利用者さんから直接いただくお金ではなく、医療保険・介護保険から支払われる報酬です。この報酬は、次の流れで入金されます。
| 時期 | できごと |
|---|---|
| 4月 | 利用者さんを訪問する(サービス提供) |
| 5月10日まで | 4月分をまとめて国保連・支払基金に請求する |
| 6月20日前後 | 4月分の報酬が入金される |
つまり、4月に働いた分のお金が入ってくるのは6月の下旬です(介護保険分の入金日は、都道府県の国保連によって多少異なります)。利用者さんの自己負担分(1〜3割)は先にいただけますが、売上の大半は約2か月待つことになります。
一方で、スタッフの給料は待ってくれません。4月に働いてもらった分の給料は、4月末か5月には支払います。事務所の家賃も、車のリース代も、ガソリン代も毎月出ていきます。
お金が出ていくのが先、入ってくるのが2か月後。 この時間差が、訪問看護の資金繰りを難しくしている根本の原因です。
「黒字なのにお金がない」が起こる4つの場面
1. 開業直後の「入金ゼロ」の2か月
開業した月から給料や家賃は発生しますが、最初の入金は早くても2か月後です。たとえば、毎月の費用が270万円かかるステーションなら、最初の入金までに540万円が出ていくだけになります。
これに加えて、立ち上げ直後は利用者さんが少なく、売上が費用に届かない月が続くのが普通です。開業資金を「物件と車と備品の費用」だけで考えていると、3か月目あたりで資金が尽きてしまいます。
2. 利用者が増えるほど、お金が足りなくなる
意外かもしれませんが、順調に伸びているときこそ危険です。
利用者さんが増えると、看護師を増やす必要があり、費用は「今月から」増えます。でも、増えた売上が入ってくるのは2か月後です。たとえば月の売上が300万円から400万円に伸びて、それに合わせて費用が月90万円増えたとすると、入金が追いつくまでの2か月で約180万円を先に立て替えることになります。
成長のスピードが速いほど、この立て替えは大きくなります。「売上は過去最高なのに、手元のお金は過去最低」ということが、実際に起こるのです。
3. 返戻(へんれい)で、一部の入金がさらに遅れる
請求の内容に不備があると、その利用者さんの分の請求が差し戻されます。これを返戻といいます。差し戻されるのは不備のあった一部の請求だけで、それ以外は予定どおり入金されます。ただし、差し戻された分は翌月以降に請求し直すことになるため、その分の入金はさらに1か月以上遅れます。
訪問看護の請求は、医療保険と介護保険で書式も決まりも違い、指示書の期限や加算の要件など確認する点が多くあります。事務の担当者が変わった直後や、新しい加算を取り始めた月に、返戻がまとまって出てしまうことは珍しくありません。件数が多いと、それだけ入ってくるはずのお金が後ろにずれ込み、資金繰りに響きます。
4. まとまった支出が特定の月に集中する
賞与、社会保険料、法人税や消費税の納付、新しい拠点を出すときの先行投資。こうした大きな支出は、毎月均等ではなく特定の月に集中します。
ふだんはギリギリ回っていても、こうした月に入金の遅れが重なると、一気に資金が足りなくなります。
資金が尽きるステーションに共通するサイン
次のうち、当てはまるものがいくつあるか数えてみてください。
- 通帳の残高でしか経営状況を見ていない
- 月次の試算表(毎月の成績表)が、2〜3か月遅れでしか出てこない
- 記帳が「入金した月に売上を計上する」やり方になっている
- 3か月先の預金残高を、すぐには答えられない
- 銀行に相談するのは「お金が足りなくなってから」と考えている
- 拠点ごと・サービスごとの損益がわからない
2つ以上当てはまる場合は、注意が必要です。特に最初の3つは、「今の本当の成績」が見えていない状態です。入金ベースで記帳していると、2か月前の成績を今月の成績だと思って判断することになります。これでは、手遅れになってから問題に気づくことになりかねません。
潰れないステーションがやっている4つのこと
1. 「訪問した月」に売上を計上して、毎月の本当の成績を見る
会計の世界では、お金が動いた時ではなく、サービスを提供した時に売上を計上する考え方を「発生主義」といいます。訪問看護では、4月に訪問した分は、入金が6月でも4月の売上として計上するということです。
反対に、入金した月に売上を計上するやり方を「現金主義」といいます。現金主義では、入金の多い月は大きなプラス、賞与や納税の月は大きなマイナスになり、毎月本当に利益が出ているのかを判断できません。数字が毎月大きく揺れるので、経営の判断もできなくなってしまいます。
発生主義に切り替えると、毎月の試算表が「その月の本当の成績」になります。今月は黒字なのか赤字なのか、どの拠点が伸びているのかが、2か月遅れではなくリアルタイムで見えるようになります。
2. 3〜6か月先までの資金繰り表を作る
資金繰り表とは、「いつ・いくら入ってきて、いつ・いくら出ていくか」を月ごとに並べた表です。訪問看護では、入金が2か月ずれることを織り込んで作るのがポイントです。
3〜6か月先まで見通せていれば、「8月に賞与と納税が重なって残高が足りなくなる」といったことが、4月の時点でわかります。わかっていれば、対策を打つ時間があります。
3. 運転資金は「余裕があるうちに」借りておく
銀行は、困っている会社よりも、順調な会社にお金を貸したがります。残高が尽きかけてから相談しても、審査に時間がかかったり、希望の額が借りられなかったりすることが少なくありません。
実は、数か月先の不足が見えた時点で動くのでは遅いのです。理想は、期のはじめに1年間の計画を立て、どこで資金が足りなくなるかをあらかじめ見越して、先に融資を取り付けておくことです。
計画を示したうえで借り、計画どおりに返していく会社は、銀行からの信頼も厚くなります。訪問看護の入金の仕組みまで説明できる事業計画があれば、銀行の担当者も判断しやすくなり、次の融資の相談もスムーズに進みます。
4. 拠点ごと・スタッフの稼働ごとに数字を見る
複数の拠点がある場合、全体では黒字でも、どこかの拠点が赤字を出し続けていることがあります。拠点ごとに売上と人件費を分けて見ることで、「どこにテコ入れが必要か」がはっきりします。
訪問件数や稼働率といった数字を管理者やスタッフと共有することも大切です。数字の意味が伝わると、現場が同じ方向を向いて動いてくれるようになります。
まとめ:倒産の原因は「赤字」より「お金の時間差」
訪問看護ステーションが資金不足に陥る一番の理由は、事業が赤字だからではなく、お金が出ていくタイミングと入ってくるタイミングのずれにあります。特に、開業直後と急成長しているときが要注意です。
対策の基本は、次の3つです。
- 訪問した月に売上を計上して、毎月の本当の成績を見る
- 入金のずれを織り込んだ資金繰り表と事業計画で、先まで見通す
- 期のはじめに不足を見越して、余裕があるうちに融資を受けておく
どれも、会計の仕組みを整えれば実現できることです。「うちは大丈夫だろうか」と少しでも感じたら、早めに専門家に相談してみてください。
