診療報酬ファクタリングは使うべき?|手数料の実態と、銀行のABLという選択肢
訪問看護の売上が入金されるのは、訪問した月の約2か月後です。この「2か月の遅れ」は、開業したてのステーションや、拠点を増やしている会社にとって、とても重くのしかかります。
そこでよく使われるのが、診療報酬・介護報酬のファクタリング(早期入金)です。請求したあと、すぐにお金が入るので便利な仕組みですが、使い方を間違えると、毎年まとまった額の手数料を払い続けることになります。この記事では、ファクタリングの仕組みと手数料の重さ、使ってよい場面とやめどき、そして銀行のABLという選択肢を解説します。
診療報酬ファクタリングとは
ファクタリングは、まだ入金されていない報酬の債権を、ファクタリング会社に売って、先に現金を受け取る仕組みです。借入れではないので、決算書に借金として載らないのが特徴です。
訪問看護では、介護・看護のソフト会社などが提供する「早期入金」のサービスがよく使われています。多くのサービスでは、毎月10日までに請求すると、その数日後(15日ごろ)に請求額の8割が入金されます。残りの2割は、本来の入金日以降に入ります。つまり、8割分を約1か月半早く受け取れるわけです。
払い手が国保連や支払基金なので、一般の企業の売掛金のファクタリングに比べると、手数料は低めに設定されています。
手数料は、1年分で見ると重い
ファクタリングの手数料は「1回あたり何%」と示されるので、安く見えます。ただ、これは約1か月半の前借りに対する手数料です。
たとえば、毎月の請求が1,000万円で、手数料が1回0.8%、月額の利用料が2,000円の場合。毎月800万円を先に受け取り、手数料は利用料と合わせて毎月約6.6万円です。1年間続けると、約80万円になります。
「年に直すと6%台」は、次のように計算しています。
- 1回の負担:手数料と利用料で約6.6万円。先に受け取る800万円に対して、約0.8%です。
- 前借りしている期間:8割を受け取るのは請求した月の15日ごろ、本来の入金はその翌月の末ごろです。つまり、約1か月半の前借りです。
- 年に直す:1年は、1か月半の8回分です(12か月 ÷ 1.5か月 = 8)。0.8% × 8 で、約6.6%になります。
言いかえると、いつも約1,200万円(800万円 × 1.5か月分)を、年6.6%の金利で借りているのと同じ負担です。
銀行の融資であれば、金利はこれより低く抑えられることが多いです。ファクタリングを毎月使い続けると、その差額の分だけ、毎年利益が削られていきます。
ファクタリングを使ってよい場面と、やめどき
ファクタリングは、悪い仕組みではありません。資金繰りが厳しいうちは、有効な選択肢です。開業したてで利用者さんが増え始めたころは、入金の2か月遅れが特に痛く、すぐに借りられる融資もないことがあります。そうした時期に、給料の支払いを守るために使うのは、十分に意味のある判断です。
一方で、資金に余裕が出てきたときや、ファクタリング以上の融資を確保できそうなときは、やめたほうがよいでしょう。手数料が高いからです。大切なのは、ファクタリングを一時しのぎとして使い、使い続けないことです。
銀行のABLという選択肢
ファクタリングに代わる方法として、ABL(動産・売掛金担保融資)があります。報酬の債権を、売るのではなく担保にして、銀行から借りる仕組みです。費用は手数料ではなく金利なので、年に直したときの負担を低めに抑えやすいのが特徴です。
払い手が国保連や支払基金である報酬の債権は、銀行から見ても質の良い担保です。実際に、信用金庫が診療報酬・介護報酬の債権を担保にした融資を用意している例や、信用保証協会の保証制度で診療報酬債権を担保として扱っている例があります。
ただし、注意点もあります。売掛金が担保に入るので、ほかの銀行は嫌がります。ほかの銀行から融資を受けようとしたときに、「一番確かな資産がすでに担保に入っている会社」と見られるからです。ABLを使うなら、ふだん取引しているメインの銀行と組むのが基本です。なお、ファクタリングで債権を売っている場合も、同じように売掛金がない会社と見られます。
ファクタリングから抜け出す手順
ファクタリングに頼っている状態から抜け出すには、次の順番で進めます。
- 資金繰り表で、足りない額をつかむ:月ごとに、いつ、いくら足りなくなるのかを確かめます。
- 事業計画をつくる:いつから資金繰りが楽になるのかを、数字で示せるようにします。
- ファクタリング以上の融資を取り付ける:事業計画をもとに、銀行や公庫から運転資金を借ります。
- ファクタリングをやめる:手数料の分だけ、毎月の利益が増えていきます。
やめ方は、使っているサービスによって変わります。金額を選べるサービスや、拠点(事業所)ごとに使い分けられる場合は、少しずつ減らしていけます。一方、請求額の一定割合が自動で前払いされるサービスでは、一度にやめる形になります。
どちらの場合も気をつけたいのが、ファクタリングをやめた月は、入金が一度大きく減ることです。それまで先に受け取っていた8割分が入らなくなり、本来の入金日まで待つことになるからです。融資の額は、この「入金の谷」まで埋められるように考えておく必要があります。
まとめ
診療報酬ファクタリングについて押さえておきたいのは、次の4つです。
- ファクタリングは、報酬の8割を約1か月半早く受け取れる便利な仕組み
- 手数料は1回あたりだと安く見えるが、1年分で見ると重い
- 資金繰りが厳しいうちは有効。余裕が出たら、融資に切り替えてやめる
- 抜け出すには、事業計画をつくり、ファクタリング以上の融資を取り付ける
入金の2か月遅れは、訪問看護の経営にずっとついて回ります。その備え方は、こちらの記事でも解説しています。
